第2章 出会いの春
「…羽山くん、一応俺の方が年上なんだし、言葉使いには気を付けようか。」
「俺は事実を述べただけだよ。」
池田さんは拳を強く握りしめていた。
徹に言い返したい気持ちを必死に抑えているのだろう。
一触即発な二人。
もう見ていられなかった。
私は池田さんの手を取って階段を駆け上がった。
徹の横を通り過ぎ、池田さんを私の部屋に半ば強制的に入れ、徹が入って来れないように鍵をかけた。
「はぁ…池田さん、巻き込んでごめんなさい。」
そう言って彼を見上げると、いつもの穏やかな顔に戻っていた。
「いや、俺こそムキになってごめん…。」
池田さんが怒るのも当然だ。
あんな風に偽善者なんて言われて、怒らない人がいるはずがない。
「あの…お礼に、夕飯作るので食べていって下さい。」
「え、悪いよ…!」
「元々、作ったら池田さんにお裾分けで持って行こうと思ってたんです。池田さん、いつもカップ麺とおにぎりって言ってたから…。」
ダメですか?と首を傾げると、池田さんは優しく笑った。
「ありがとう。ぜひ頂きます。」
「良かった!じゃあ、適当に座ってて下さい。すぐに作りますから。」
不思議と、池田さんを部屋に入れる事に抵抗は無かった。
初対面の時からそうだが、彼から下心や悪意を感じないからかもしれない。
池田さんは徹とは違い、遠慮がちにテーブルの近くに胡座をかいて座った。
気を取り直して、料理に取りかかる。
「あ、池田さん。煮物って食べれますか?」
「食べれるよ、むしろ大好き!」
屈託の無い笑顔。
池田さんといると、不思議と心が落ち着いた。