第19章 徹と涼
リビングに徹を連れて行った。
父はソファーから立ち上がり、徹の目の前に立った。
「初めまして。羽山徹です。」
徹は、彼の行動とは思えない程丁寧に頭を下げた。
「初めまして、シュリの父です。まぁ、座りなさい。」
父は徹にソファーに座るよう促した。
私は徹の隣に座った。
涼とエミリは気を使ってか、食卓のイスに座りながら私達を見ていた。
静まり返る部屋。
空気が重たい…と感じているのは私だけだろうか。
「羽山君、聞きたいことがある。」
沈黙を破ったのは父だった。
「なんですか?」
徹がこんなに真剣に人と話す姿を見るのは初めてだ。
「君は…こう言ったら悪いが、どうしてシュリのために大学を休学して、引っ越しまでして来たんだい?君の親御さんは反対しなかったのかね?」
いきなりそんな事…と思ったが、ここは黙って二人の話を聞くことにした。
「シュリさんのことが好きだからです。なるべく傍にいたい…もしも何かあった時にすぐに駆け付けられる場所にいたいから、引っ越して来ました。親は…訳あって父親しかいませんが、自分の気持ちを伝えたら背中を押してくれました。」
「そうか…そんなにシュリのことを想ってくれてるのか。」
父は徹に頭を下げた。
これにはその場にいる全員が驚いた。
「羽山君、娘のためにそこまでしてくれてありがとう。娘は幸せ者だ。」
そう言うと、父は顔を上げ、笑みを浮かべた。
「君に会ってみたい気持ちもあったが、何より直接お礼が言いたくてね。」
徹は呆気に取られていた。
「あ、いや…こちらこそありがとうございます。」
徹も父に頭を下げた。
「ね、ほら。大丈夫だったでしょう?」
母が食器を運びながら得意気な笑みを浮かべてそう言った。
「お母さん、お父さんが徹にお礼言うために呼んだって分かってたの?」
お母さんはお茶目にウインクをしてみせた。
私は思わず徹の肩に寄りかかった。
「もー、大乱闘が起きるかと思ってヒヤヒヤしてたんだからぁ。」
「シュリ、羽山君、近いぞ。離れなさい。」
父は徹に寄りかかる私を見て眉間に皺を寄せた。
涼が大爆笑しながら父の隣に座った。
「おじさん良かったね!息子がもう一人できて!」
「羽山君のことはまだ息子とは思ってない。」
その発言に徹は苦笑いをした。