• テキストサイズ

薔薇と向日葵

第19章 徹と涼


その日の夜。
面会時間終了の30分前に徹が来てくれた。

スーツ姿に眼鏡をかけた徹は、いつもよりかっこよく見えた。

「お疲れ様。徹って視力悪かったっけ?」

「ああ、これ?伊達眼鏡だよ。眼鏡屋だからかけろって言われて。視力は悪くない。」

そう言って、徹は眼鏡を外した。

「仕事、どう?」

「やっていけそうだよ。大丈夫。」

そうは言いつつも、慣れない労働のせいか、少し顔が疲れていた。

「無理して面会に来なくてもいいからね?」

「俺が会いたいから来てるだけ。」

徹はネクタイを緩めて溜め息をついた。

「シュリの作った唐揚げが食いてぇ。」

「元気になったら…。」

そう言いかけ、私は思い出した。

「あ、徹さ、明日の夜って空いてる?」

「19時まで仕事だけど、その後は空いてる。なんで?」

「あたしね、明日から一泊二日、外泊許可が出たの。」

そう言った瞬間、徹は驚いた。

「お前、そういうことは先に言えよ!」

「あ、ごめん…それでさ、お父さんが明日の夜、徹も呼んでうちでご飯食べようって言ってるの。どうする?」

「親父さんに呼ばれたら行くしかねぇだろ。」

「でもうちのお父さん…無駄に威圧感あるし、無口だけど…大丈夫?」

「別に、大丈夫だよ。何なら結婚する約束してること話す?」

「それはまだダメでしょ!!」

徹はいつも通り飄々としているが、私の方が焦ってしまった。

そんな私を見て、徹は笑った。

「冗談だよ。」

「もー、びっくりさせないでよ。」

徹は私の手を握り、微笑んだ。

「でも良かった。治療も上手く行ってるみたいだし。」

「…うん。ありがとう。」

徹がじっと私を見つめた。
私も徹を見つめる。

その時…。

「明智さーん、面会時間終わりますよー。」

年配の女性の看護師さんが部屋に入ってきて、
私達を見てニヤッと笑った。

「あら、いい所だったみたいね。邪魔しちゃってごめんなさい。」

徹は渋々帰る支度をした。

「じゃあ明日、何時にシュリの家に行けばいいかメールしといて。」

「わかった。また明日ね。」

去り際に、徹は看護師さんの耳元で囁いた。

「…次はオマケしてよ?オネーサン。」

看護師さんは恍惚とした表情で徹の背中を見つめた。

…あの軟派野郎、なんだか口が上手くなってるぞ。
/ 280ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp