第19章 徹と涼
面会を終え、涼と共に病院を出た。
「徹、シュリはきっと大丈夫だよ!先生もああいう風に言ってたし!」
俺は、涼の様に素直に喜べなかった。
寛解状態になることは嬉しいことだが、シュリにとってはこれから更に辛い治療になると思うからだ。
俺は医者ではない。
だから、知識は本やネットで得たものだが、その知識が正しければこれから更に強い抗がん剤を長期間に渡って使用する事になるだろう。
病気を治すためには避けては通れない道だが、苦しむシュリを想像すると涼の様に素直に喜べなかった。
「徹!」
涼の声で我に返った。
「あ?なんだよ。」
「みんなで、シュリのこと支えてあげようね?」
涼は真っ直ぐに俺を見つめた。
涼も、何となくは分かっているのだろう。
これから更にシュリの治療が厳しくなることを。
それでも涼は、前向きだ。
きっとこれから、シュリが治療で苦しい時は共に泣き、少しでも良くなれば自分のことの様に喜ぶのだろう。
俺なんかよりもずっと、シュリと、シュリの病気と向き合っている気がした。
「…涼、お前はずっとそのままでいてくれよ。」
きっと時には、俺なんかよりシュリの支えになるだろう。
涼は首を傾げた。
「うん、僕は僕だよ?」
俺は自嘲気味に笑った。
「俺みたいな人間より、お前みたいな奴の方がシュリには合うのかもな。」
思わず口をついた言葉。
次の瞬間、涼に思いきり腹を殴られた。
「おまっ、何だよいきなり…。」
「何言ってんだよ!!」
涼は怒っていた。
「そんなこと、二度と言うな。シュリの彼氏なんだから堂々としてろよ!徹にしか出来ないこと、沢山あるだろ!!」
涼はそう言うと、もう一発殴ってこようとした。
俺はそれを避けたが、涼は怒りに任せて何度も何度も殴ってきた。
「このヘタレ野郎!馬鹿野郎!」
「わ、悪かったよ!落ち着けよ!」
涼の腕を掴むと、涼は俺を睨んだ。
「泣いたって弱音はいたって良いけど、シュリの彼氏は徹なんだから、そこは堂々としててよ!」
「わかったよ…。」
涼は、ふん!と言って俺から顔をそらし、先に帰ってしまった。
"徹にしか出来ないこと、沢山あるだろ!!"
涼の言葉が胸に突き刺さった。