第18章 徹の決断
久しぶりに訪れたのは、静岡にある実家だった。
本当は来たくなかったが、仕方ない。
家に入り、リビングへ向かうとそこには…父親がいた。
父親は俺の姿を見ると驚いた。
「徹…!久しぶりじゃないか!いきなりどうした?」
俺は父親の正面に座った。
「…親父に、頼みがある。」
「どうした?」
父親は真剣な表情で俺を見つめた。
「今…好きな女がいる。だけどそいつ…白血病なんだ。」
父親は黙って俺の話を聞いた。
「そいつは今、長野の病院に入院して治療してる。今は無菌室に入ってるから面会できないけど…無菌室から出られれば面会できるんだ。俺は…なるべく傍にいてやりたい。そいつに何かあった時、すぐに駆けつけてやりたい。だから…。」
俺は今まで、散々父親を責めてきた。
そんな俺がこんなことを頼むのは都合が良いのは分かっている。
しかし、未成年の餓鬼の俺が頼れる人間は、この人しかいなかった。
「大学を休学して、長野に行きたい。だから、力を貸して下さい。」
俺は初めて、父親に頭を下げた。
「…そんなにその子が好きなのか?」
俺は頭を下げたまま答えた。
「…好きだ。」
「そうか…徹、顔を上げなさい。」
顔を上げると、父親は微笑んでいた。
「お前が俺を嫌っているのは知っていた。だけどそんなお前がわざわざ頭下げに来たんだ。お前の気持ちは十分伝わったよ。長野に…その子の所に行ってやれ。」
「…ありがとう。」
父親に感謝の言葉を述べる日が来るなんて思わなかった。
父親は、長野に引っ越す費用、向こうでの生活費を出してくれると言った。
「向こうに行ったら働くつもりだから、仕事が見付かったら生活費はいいよ。」
「わかった。徹…。」
「なに?」
「お前、顔付きが優しくなったな。その子のお陰かな?」
思わず、自分の顔を触った。
「…うるせぇよ。」
父親は何故か、嬉しそうに笑った。