第2章 出会いの春
サンダルで玄関を飛び出した私は、アパートの階段の下に隠れた。
体育座りをして、膝に顔を埋める。
あんな男の隣に4年間も住まなくてはならないと思うと嫌で嫌で仕方なかった。
まだ大学に入学すらしていない。
こんな所で挫折する訳にはいかないのだ。
私には、夢があるから。
それを応援してくれる家族がいるから。
涙がこみ上げてきた。
声を押し殺して泣いていると、人の気配を感じた。
徹が追いかけて来たと思った私は恐る恐る顔を上げた。
そこには、徹ではなく池田さんが立っていた。
「大丈夫?明智さん。」
「池田さん…なんで…。」
「いや、夜勤明けで寝てたんだけど、明智さんの怒鳴り声で起きて…ほら、ここ壁薄いからさ。心配で探しに来ちゃった。」
池田さんは優しく笑った。
引っ越してきたばかりのただの隣人の心配をしてくれるなんて…。
私は声を上げて泣いた。
今日1日のことを思い出して。
徹に振り回された事が悔しくて。
そして、池田さんの優しさが嬉しくて。
池田さんは困った様に笑いながら、しゃがみこんで私の頭を撫でてくれた。
大きくて、ゴツゴツした温かい手。
「大丈夫だよー、明智さん。泣くなー。」
「大丈夫じゃないですっ…。」
「羽山くんと何かあった?」
「え…?」
「彼が、明智さんの部屋から出てくるの見たから…。」
徹は、私の部屋から出て行ったのか。
恐らく自分の部屋に戻ったのだろう。
それを知れただけで一安心した。