第14章 兆候
「シュリはさ、羽山くんのことが好きなんだよ。」
「は?じゃあ何でお前と付き合ったんだよ?」
「正確には、俺と付き合った後に、羽山くんを好きになった。でも本人は自分の本当の気持ちに気付いてなかった。」
段々と、話が読めてきた。
「それをお前の口からシュリに言ったわけか。」
「うん。それで別れようって言った。」
だからシュリの奴、さっき泣き出したのか。
「それで引っ越しまでするのかよ。俺達のためか?かっこつけてんじゃねーよ池田のくせに。」
「そんなんじゃないよ。」
池田はゆっくりと煙を吐いた。
「…俺が、耐えられなくなっただけ。シュリと羽山くん、誰から見たって両想いだよ。これから先、二人がどうするか俺には関係ないけど、二人を見てるのが辛くなった。俺はまだ、シュリが好きだから。」
「ああ、要するに逃げるのか。」
「うん。俺は逃げる。だからシュリのこと、よろしくね。」
池田は潔くそう言った。
「お前に頼まれなくても、シュリは俺が幸せにする。」
「羽山くん、最後くらい仲良くしようよ…。」
「嫌だね。俺はテメェが大っ嫌いだからな。好きな女が幸せになるために自分の幸せ犠牲にするようなお人好し…そういう奴他にも知ってるんだよ。ちなみに俺はそいつのことも大嫌いだ。」
「じゃあ、羽山くんならどうした?俺と同じ立場なら。」
「少なくとも自ら手を引いたりはしねーな。」
池田は声を出して笑った。
「羽山くんらしいや。」