第14章 兆候
「なんで?」
「直人さ、2歳の時に親に捨てられてそれからずっと養護施設で育ったんだって。それは前に聞いてたんだけど…。」
徹は真剣な顔で、黙って私の話を聞いた。
「今の仕事辞めて、その施設で働くことにしたんだって。ここからじゃ通うのに遠いから、施設の近くに引っ越すって。」
「…そうか。」
「寂しくなるね。」
私は、直人と別れたことは言わなかった。
それから、自分の本当の気持ちに気付いたことも。
直人を嫌っているはずの徹が小さく頷いた。
「そうだな、寂しくなるな。」
私に合わせて頷いてくれているのだと解った。
熱のせいで気持ちも弱っているせいか、涙が溢れた。
「泣くなよ。別に少しお互いの家が遠くなるだけだろ?」
「…そうだね。徹、ありがとう。もう大丈夫だから、部屋に戻って。風邪だったら移っちゃうかもしれないし。」
「俺は大丈夫だよ。」
「ホントに、大丈夫だから。」
徹は溜め息をついて立ち上がった。
「なんかあったら呼べよ。壁蹴れば来るし。」
「そんなことしないよ。」
「まぁそれは冗談だけど…電話なりメールなりで呼べ。」
「ありがとう。」
徹が部屋から出て行ったのを確認し、私は枕に顔を埋めて泣いた。