第14章 兆候
「シュリ、俺さ…このアパート出ていこうと思って。」
「え?」
突然の事で頭が付いて行かなかった。
「な、なんで?」
「俺さ、今の仕事辞めて、お世話になった施設で働こうと思って。ここからだと通うのに遠いから、もう少し近くに引っ越そうと思ってさ。」
「どうしてそんな急に…。」
「少し前から誘われてたんだけど、シュリがいたから断ってきたんだ。」
"いたから"
何故、過去形なのだろう。
「私は、直人の傍にいるじゃない。これからだって…っ。」
「シュリのこと、好きだよ。正直、シュリがお嫁さんになってくれたら俺がずっと憧れてた温かい家庭が築けるだろうなぁって思ってた。」
「それなら、これからも一緒にいようよ。私、いつか直人のお嫁さんに…。」
「シュリはッ…!」
直人が私の言葉を遮るように怒鳴った。
「シュリは…鈍感すぎるよ。自分の本当の気持ちにも気付かないで…シュリが本当に好きなのは、羽山くんだろ?」
その言葉に、違うと言えない自分がいた。
思えば私は、最初は確かに直人のことが好きだった。
だけどいつしか、徹のことばかり考えて、何かと徹を優先してきた。
直人に言われて、漸く気付いた。
私が本当に好きなのは…徹だ。
直人はそれに気付いていたんだ。
「…シュリ、別れよう。」
「直人…、ごめん…っ。」
自分で気付けば、直人にこんなことを言わせずに済んだのに。
私に泣く権利など無いのに、涙が溢れた。