第14章 兆候
「あのね、あれ…私がやった役、最初は紫音先輩がやる予定だったんだけど…。」
「え?別所さんが?男の子があの衣装は少し可哀想な気がするなぁ。」
直人はクスクスと笑った。
つられて私も笑ってしまった。
「でもね、紫音先輩あの通り綺麗だから似合ってたんだけど、撮影した先輩の指示で手を取って見つめ合ってとか言われたら徹がそんなこと出来るか!って怒りだして。」
「羽山くんらしいねー。」
「それで流れで私が紫音先輩の代わりにやることになって…だから、あのポーズは全部先輩の指示でやっただけで、その…。」
言葉に詰まる私の頭を、直人は優しく撫でてくれた。
「シュリ、別に俺怒ってないよ?二人が凄くお似合いだったから、ちょっとヤキモチ妬いたけどね。」
直人は悪戯な笑みを浮かべた。
「良かった…。」
「どうしたの?」
「直人、ここ何日か様子が変だったから…いつもの直人だと思ったら安心した。」
「…そっか。心配かけてごめんね。」
直人は急に俯いてしまった。