第13章 大学祭2日目
それから1時間くらい経った。
紫音先輩は結構飲んでいるが顔色一つ変えず、桐生先輩はいつもより饒舌になり、ドールについて田中先輩に同じ様な話を延々と繰り返し話している。
「帰りてぇ。」
徹が退屈そうにそう呟いた。
「そんなこと言わないの。」
徹をなだめていると、突然相田先輩が大きな声で話し出した。
「それにしても、明智の彼氏さんが来た時はびっくりしたなぁ!」
「武先輩っ!」
隣に座る小山先輩が慌てて相田先輩の口を塞いだ。
「え…直人来たんですか?」
七瀬を見ると、気まずそうな顔をしている。
「七瀬、直人来たの?」
「うん…1日目、シュリと徹が飲み物買いに行ってる間に…。」
だから私達が買い出しから戻った時、場の空気がおかしかったのか。
恐らく、直人は私と徹の写真を見たのだろう。
「直人、あの写真見たよね…。」
「うん…でも、全然気にしてなかったよ。羽山君かっこいいねー、シュリも綺麗だー、って言ってたし。」
まさか直人が大学祭に来るなんて考えもしなかった。
「なんで教えてくれなかったの?」
七瀬を問いただすと、紫音先輩が溜め息をついた。
「七瀬は気を使ったんだよ。彼氏にあんな写真見られたって知ったら、やましいことは無くても気まずいだろうから直人さんが来たことはシュリには黙ってようって。」
「まぁ、相田先輩の今の一言で全て台無しになったけどな。」
田中先輩が相田先輩を横目で見た。
相田先輩は酔った勢いで言ってしまったのか、
申し訳なさそうに俯いている。
楽しく進んでいた宴が、一瞬にしてお葬式のような雰囲気になってしまった。
その沈黙を破ったのは徹だった。
「あいつがシュリに何も言わずに勝手に来たんだから、ここにいる全員悪くねぇだろ。それにあれはあくまでも写真部の作品だろ?個人的にどうこうしたわけじゃねぇんだから、シュリが気に病む必要もないと思うけど。」
「俺も羽山君と同じ意見だなぁ。」
珍しく、徹と紫音先輩の意見が合った。
「それもそうよね。あれは芸術の一種なの。それに、二人は私の指示に従ってポーズをとっただけ。もし彼に何か言われたら、先輩の指示通りにしただけだって言えばいいわ。」
桐生先輩がいつもより優しい口調でそう言った。