第12章 大学祭1日目
シュリと徹が飲み物を買いに行っている間に、一人の男性が写真部のコーナーに来た。
「あ、直人さんじゃないですか。」
別所先輩の言葉で私は彼がシュリの彼氏の直人さんだと察した。
「別所さん…この前はシュリがお世話になりました。」
「いえいえ。」
「紫音、この方は…?」
小山先輩の問いかけに、私が答えた。
「この人、シュリの彼氏さんです。」
私と別所先輩以外の全員が驚いた。
直人さんは私を見て「ああ…。」と呟いた。
「もしかして君が七瀬ちゃん?」
「はい、そうです。」
「たまにシュリから話聞いてるよ。大学で一番仲良しの友達だって。」
直人さんは穏やかな笑みを浮かべた。
直人さんはシュリが話してる通りの人物のようだ。
「あれ?シュリは?」
「シュリなら今、飲み物買いに行ってますよ。」
「そうなんだ。」
直人さんは何の気なしに展示された写真を見始めた。
「…これ、シュリと羽山くん?」
直人さんがシュリと徹が被写体になったオペラ座の怪人の写真を見て言った。
あああっ…!!!
私は心の中で叫んだが、時すでに遅し。
自分の配慮の足りなさを恨んだ。
二人が密接に絡み合う写真を見て、直人さんが何も思わないはずがない。
先輩達も同じ気持ちなのか、気まずそうな顔をしている。
しかし、直人さんはニッコリと笑った。
「いい写真だね。羽山くん格好いいし、シュリも綺麗だ。」
直人さんは特に気にする様子もなく、他の写真も見て回った。
そして最後に、小山先輩が撮った風景の写真のポストカード5枚入りを買った。
「どれも素敵な写真でした。それじゃあ俺、帰りますね。」
「あ、あの!もうすぐシュリ戻って来ると思うんですけど…。」
思わず引き止めてしまった。
多分、直人さんはシュリに会いに来たのだろう。
「これから仕事なんだ。シュリにごめんねって伝えといてくれる?」
「わかりました…。」
直人さんは私達に丁寧にお辞儀をして帰って行った。