第12章 大学祭1日目
「別所先輩、ちょっといいですか?シュリは作業続けててね?」
七瀬は紫音先輩の手を引いて部室から出て行った。
いきなりどうしたのだろう。
とりあえず、一人で作業を続けた。
別所先輩を連れて、部室から少し離れた場所に移動した。
「別所先輩、シュリに余計なこと言わないで下さい。」
「どうして?自分の本当の気持ちに気付かないまま他の男と付き合い続けてさ、気付いた時には遅かったなんて展開になる方が可哀想じゃない?」
「それも一理あるけど…でもシュリは自分の本当の気持ちに気付いたら直人さんを振らなきゃいけないんですよ?そうなったらあの子の性格からして…絶対に凄い悩むし、苦しむと思う…。」
「恋愛なんて誰かしら傷付くし、悩みや苦しみは付き物だと思うけど。」
別所先輩の言っている事は正論だ。
でも私は…。
「シュリのそういう姿を石川さんが見たくないだけじゃないの?」
図星だった。
何も言い返せずにいると、別所先輩は溜め息をついた。
「それに君だってこの前言ってたよね?最終的に誰を選ぶかはシュリが決めることだって。」
「そう、ですけど…でもやっぱり、無理に気付かせる必要は無いんじゃないですか?」
別所先輩は少し考えた後、ニッコリと笑った。
「まぁ、それもそうだね。もう余計なことはしないよ。」
その言葉を聞いて一安心した。
私はずっと掴んでいた別所先輩の手を離した。
「…戻りましょうか。すみません、いきなり連れ出したりして。」
部室に戻ろうとすると、別所先輩に思いきり腕を引っ張られた。
「ちょ、なに…っ。」
「俺は、凄く友達想いな君が好きだな。」
「はぁ…どうも。」
「石川さん、彼氏いるんだっけ?」
「いますけど…。」
「妬けるなぁ。」
何、コイツ。
入部した時からよく解らない奴だと思ってたけど…。
「遊びなら他当たって下さい。」
「本気だって言ったら?」
「好きにして下さい。私が彼を好きな気持ちは変わりませんから。」
別所先輩の手を振り払い、先に部室に戻った。