第11章 本当の気持ち
翌日。
いつも通りの時間に家を出ると、ほとんど同じタイミングで徹も部屋から出てきた。
「おはよう徹。」
「…はよ。」
また一緒に登校する事が出来るのが嬉しかった。
徹は相変わらず朝が苦手で、鍵をかけるのに苦戦している。
「もー、ほら鍵貸して。」
代わりに鍵を閉めて、徹のズボンのポケットに鍵を入れた。
学校に着き、七瀬も徹を見て安心したようだった。
「徹、家出終わったの?」
「うっせーな。」
豪快に笑う七瀬。
徹はおもむろに鞄から何かを取り出すと、七瀬に渡した。
「なに?」
「昨日は突き飛ばして悪かった。お詫び。」
徹が渡したのは小さな包み紙に包まれたチョコだった。
思わず、私と七瀬は吹き出してしまった。
「お詫びがこれかよー!」
七瀬は笑いながら徹の背中を叩いた。
「気にしてないよ。徹が戻ってきてくれて良かった。あんたがいない間、シュリずっと元気なかったんだから。」
「そんなこと言わなくていいよ!」
またこうして、3人で笑いながら過ごせることが嬉しかった。
お昼休み。
3人でランチをしていると、視線の先から紫音先輩が歩いてきた。
「あ、紫音先輩だ。」
私がそう言うと、徹はあからさまに嫌そうな顔をした。
「良かった。羽山君学校に来たんだ。」
紫音先輩が徹の顔を覗き込んだ。
「君にはやってもらわなきゃいけないことがあるんだ。」
「…なんだよ。」
徹は相変わらず紫音先輩に敬語を使わないが、紫音先輩は気にするのをやめたようだ。
「君、大学祭前のこの忙しい時期に全然サークルに顔出さなかったよね?」
「そもそも学校に来てねぇし。」
「だから、部員みんなへのお詫びとして、大学祭で展示する写真の被写体になってもらうよ。」
「は?嫌だよ。」
徹は即答で断った。
しかし、紫音先輩は引かなかった。
「これは俺からじゃなくて武先輩からの指令だからね。断ることは許されないよ。」
徹は観念し、舌打ちをした。
「わかったよ。」
「ん、いい子だね。それじゃあ一緒に被写体、頑張ろうね。」
「一緒に…?」
「うん、俺も被写体だから。羽山君と俺を並ばせたいみたいだよ、先輩方は。」
「マジかよー…。」
項垂れる徹を見て、笑いながら紫音先輩は去って行った。