第10章 行方不明の徹
狭いトイレの中に、徹と二人きりになる。
徹は叩かれた頬をそっと撫でた。
「あーあ、腫れちゃった。」
「そんなことどうでもいいよ。それより…。」
私は両手を徹の頬に添えた。
「今、すっごい怖い顔してるよ。」
そう言って思いきり頬をつねって横に伸ばした。
「いへぇよ!」
「七瀬を突き飛ばした罰です!」
「はなへ!」
私は手を離し、小さく笑ってしまった。
「良かった。いつもの徹だ。」
徹は私から顔を反らした。
「…何でここにいるって分かったんだよ?」
「徹と前に来たの思い出して…。」
徹が消えたこの2週間の事を思い出す。
「この2週間…毎日毎日徹の部屋に行ったり、何回も連絡したんだよ…なんで何も言わずにいなくなっちゃったの?ずっと心配してたんだよ?」
涙が溢れそうになるのを必死で堪えた。
「…泣くなよ。」
「泣いてないよ!」
私は徹の手を握った。
「ねぇ、アパートに帰ろう?ちゃんと話しよう?」
徹を見つめると、徹は観念したように溜め息をついた。
「…塩の唐揚げ作ってくれんなら帰る。」
その言葉で、思わず笑みが溢れた。
「うん、いっぱい作ってあげる!」
その後、徹が一緒にいた人達に見付からないように私達はそっと店を出た。