第10章 行方不明の徹
殴られると思ったが、私は全く痛みを感じていなかった。
そっと目を開けると、徹の拳は私の目の前で止まっていた。
徹はそっと拳を下ろし、私達に背を向けた。
「徹、ちゃんと話し合おうよ…あの日、本当は謝るために私を探してくれてたんでしょ?」
徹は何も言わない。
それでも、私は話すのをやめなかった。
「私も徹に謝りたいの!また一緒にご飯食べようよ。徹の好きな唐揚げ作るから。」
確かに聞こえているはずなのに…私の言葉はもう徹に届かないのだろうか。
「あのさぁ、さっきからウザいんだけど。さっさと失せろよ!」
一人の女の子が私の頬を叩いた。
頬に鋭い痛みが走り、直後に熱を帯びた。
「シュリ、大丈夫?」
紫音先輩が私の頬に手を添えた。
「大丈夫です…。」
すると、徹がテーブルに置いてあるグラスを手に取り、その女の子に飲み物をかけた。
「きゃっ、何すんのよ徹!」
「余計なことすんじゃねぇよ。」
それを見ていた一番大柄な男性が、徹の胸ぐらを掴んだ。
「徹テメェ、こいつが俺の女だって知ってるよな?」
「ああ、知ってるよ。誰にでもすぐに股開く軽い女だってことも。」
「あ?まさかテメェら…。」
男性が徹と女の子を交互に見た。
女の子の顔が青ざめていく。
「ち、違うよ!私は徹に無理矢理…っ。」
「あんな不細工なデカブツより徹の方がいいって言いながら腰振ってたの誰だっけ?」
徹はそう言い放つと、鼻で笑った。
男性の怒りは徹ではなくその女の子に向けられた。
男性は徹を突き飛ばし、女の子に詰め寄った。
「お前らは帰れ。俺が用があるのはシュリだけだ。」
徹は七瀬と紫音先輩にそう告げた。
七瀬は納得していない様子だったが、紫音先輩が七瀬の腕を掴んで店を出た。
徹は私を店の男女共用トイレに強引に連れ込んだ。