第10章 行方不明の徹
店の中は、相変わらず薄暗くて少し気味が悪かった。
店内を見渡すと、一番奥の席に4~5人の男女がいた。
その中に、徹がいた。
「徹!!」
私が言うよりも先に七瀬が叫び、足早に徹の元へ歩み寄った。
徹とその周りにいる柄の悪そうな人達が七瀬を見た。
「すっげー美人。徹の知り合い?」
男の一人が七瀬の手を掴んだが、七瀬はそれを振り払って徹の胸ぐらを掴んだ。
「あんた、今まで何してたのよ。学校にも来ないしあたし達がどれだけ心配したと思ってんのよ!」
徹は無表情で七瀬を見た後、私達の方を見た。
その目付きは、私の知っている徹のものではなかった。
冷めきって、光の無い瞳。
「ちょっと、なんとか言いなさいよ!」
徹は視線を七瀬に戻すと、七瀬を突き飛ばした。
七瀬は派手に床に転んだ。
徹は七瀬を、本気で突き飛ばしたのだ。
それを見ていた紫音先輩が直ぐ様七瀬に駆け寄った。
私も後を追いかける。
「七瀬、大丈夫?」
「大丈夫、だけど…。」
七瀬は転んだことよりも、徹に本気で突き飛ばされたことにショックを受けているようだった。
紫音先輩が私達を庇うように立った。
「久しぶり、羽山君。」
紫音先輩は笑みを浮かべながら徹に話しかけた。
「君とはそんなに関わったことないけど…女の子を本気で突き飛ばすようなクズだとは思わなかったよ。」
その言葉で、徹が椅子から立ち上がった。
紫音先輩の胸ぐらを掴み、睨み付ける。
「…何なんだよテメェは。」
「忘れたの?君の先輩だよ。可愛い後輩達が必死で君を探してたから協力することにしたんだ。」
徹が私と七瀬に目を向けた。
「…帰れよ。二度と俺の前に姿見せるな。」
「探しに来たのにそれは無いんじゃないの?」
「探してくれなんて頼んでねぇよ!」
徹が紫音先輩を殴ろうとした瞬間、私は咄嗟に紫音先輩の前に立った。