第9章 揺れる心
一方的に電話を切ってしまった。
だけど、今は徹と関わりたくなかった。
突き放されたり、心配されたり…コロコロと変わる徹の態度に疲れてる自分がいた。
紫音先輩が心配そうな顔で私を見た。
「大丈夫?」
私は無理に笑顔を作ってみせた。
「大丈夫です。ただ、ちょっと疲れちゃっただけで…。それよりすみません、いつの間にか寝ちゃって…。」
「いいんだよ。人の心は脆いから、大切にしてあげないと…。」
紫音先輩は庭で蝶に向かって話しかけている姉を見て悲しげに微笑んだ。
「私、正直に言うと紫音先輩のこと苦手でした。口調は穏やかだし、口元は笑ってるのに…目が笑ってなかったから。」
その言葉で、紫音先輩は少し驚いた。
「よく人を見てるんだね。」
「私、妹が中学生の時にいじめられて引きこもりになっちゃって…それから妹が何を考えてるのか知りたくて、人の些細な表情の変化とかにも目が行くようになったからかもしれません。」
「そうなんだ…俺は、姉がレイプされた時にそいつらの中の一人を殺しかけたんだ。まぁ、自分より大柄で力もある男達の中に殴り込んだから、結局は返り討ちにされたんだけどね。その時から、目付きが変わったって親には言われてる。」
余程、憎かったのだろう。
そして今も憎いのだろう。
自分の姉の心も体も傷付けた相手が。
「でも、なんて言うか…紫音先輩がお姉さんを見る時の目は凄く優しくて愛しそうです。私にはそう見えます。」
「…そうかな。ありがとう。」
その時、私のスマホが鳴った。
画面を見ると直人からの着信だった。
「すみません、ちょっと失礼します。」
紫音先輩に断りを入れ、電話に出た。