第9章 揺れる心
何回目かのコールで電話が繋がった。
「シュリ!お前今どこにいるんだよ!?」
「その声は羽山君かな?」
電話に出たのはシュリではなかった。
この独特な声と口調…思い当たる人物は一人しかいなかった。
「お前、別所か?」
「別所先輩、でしょ?羽山君。」
「なんでお前が出るんだよ。」
「シュリ、今寝てるから。」
「は?お前シュリと一緒にいるのか?」
「そうだよ。シュリは今、俺の家にいるから。」
訳が解らず、深呼吸をして心を落ち着かせた。
「どういうことだ?」
「君が怪我したシュリを置いて行っちゃったから、俺が家まで連れてって手当てしたんだよ。」
「怪我?シュリ怪我してるのか?」
「軽い捻挫と膝を擦りむいただけだけどね。あ、シュリ起きたよ。代わる?」
「代わってくれ。」
会話の内容までは聞き取れないが、電話の向こうでシュリと別所が話しているのがわかった。
「…徹?」
漸くシュリの声が聞けて、一安心した。
「シュリ、探したんだぞ。」
「ああ…ごめんね。あの後徹のこと追いかけようとしたら転んで怪我しちゃって…たまたま通りかかった紫音先輩が自宅まで運んでくれて、手当てしてもらったの。」
「そうか…今から迎えに行く。別所の家何処だ?」
そう言うと、シュリは黙ってしまった。
「…シュリ?」
「…ごめん、今は徹に会いたくないの。後で直人に迎えに来てもらうからいいよ。」
「なんで…っ。」
「なんか、疲れちゃった。ごめんね。」
その言葉を最後に、一方的に電話は切られた。
俺はしばらくその場に立ち尽くした。
"今は徹に会いたくないの。"
"なんか、疲れちゃった。"
その言葉が何度も何度も頭の中で繰り返された。
シュリは、あの女とは違うのに。
何故か、幼い頃母親に置いていかれた時と同じ気持ちになった。