第2章 出会いの春
まるでドラマを見ている様だった。
「時計が欲しいって言ったの徹じゃん!」
徹…羽山さんの名前か。
思わぬ所で羽山さんの名前を知ってしまった。
羽山さんは激怒する彼女を見て鼻で笑った。
「別に、雑誌読んでて一人言で言っただけなのに、お前が勝手に買ってきたんだろ。」
あまりにも酷い言葉。
彼女の怒りは涙に変わり、泣きながら店から出て行った。
あんなに性格の悪い人間、初めて見た。
私は冷めてしまった紅茶を一気に飲み干し、羽山さんに見付かる前に店から出ようとした。
「オイ。」
しかし、遅かった。
羽山さんが私の方に向かって歩いてきた。
「お前…明智だっけ?バレてないと思ってたの?」
「偶然居合わせただけです。失礼します。」
早口でそう告げて店から立ち去ろうとした。
気分はチンピラに絡まれた一般人だ。
しかし、羽山さんは私の腕を掴んで離さなかった。
「あの…離して下さい。」
「俺さ、今気分悪いんだわ。」
「そうですか…。」
見てたこちらも気分が悪い、とは言えず、素っ気なく返した。