第2章 -なにかひとつ-(澤村)
「え…?」
泣きそうな表情のすみれは、
そのままマスターを見上げた。
「今自分で言ってたじゃないか?
”このままじゃいけない”って。」
「…‼︎」
「わかってるなら大丈夫だ。
焦らなくていいとオレは思うな。
皆…夢を見つけたりするのは、
自分のペースがあるんだよ。
人に合わせなくていいんだから。」
マスターはすみれの頭を
くしゃくしゃっとしてから手をはなす。
「あっ‼︎もうっ‼︎」
すみれは慌てて髪を整える。
「でも…わたし、ほんとに何も…」
「最初はなんでもいいんだよ。
なにかひとつ…好きなもの…
頭の中に思い浮かべてごらん。
キッカケはなんでもいいんだからさ。」
マスターはクルリと後ろを向き、
冷蔵庫から何かを取り出して、
すみれの前に差し出す。
「…プリン?」
「泣きそうなキミに特別サービス♪
1回くらい、
笑った顔見せてもらわなきゃな。」
「なっ…⁈そ、そんなのムリです‼︎」
ニヤッとからかうように
マスターが言うと、
すみれは真っ赤になって、
プリンを押し返そうとする。
「じゃ、笑わなくていいよ。
普通に食べてごらん。」
「…いただきます。」
すみれはマスターのことばに負け、
ぱくんと一口プリンを口に運ぶ。
「美味し〜いっ‼︎」
「ほら♪笑顔になった!」
「えっ⁇」
「今…いい顔してたよ?
どんなコでも笑顔になる…
魔法のプリン…なんてな。」
すみれはポカンとして、
マスターを見つめていたが、
もう一口…もう一口…と、
プリンを口に運ぶ。
マスターは洗い物を拭きながら、
その姿を見つめていた。
すみれの顔は、
店に来た時とは別人のように
スッキリ晴れやかな顔になっていた。
---End---