第3章 -逮捕すんぞ-(火神/氷室/青峰)
「おまちどぉさん。」
「わぁい‼︎やったー!
いっただっきまぁす!」
店に入って
すみれが最初にオーダーしたものは、
シャンディガフと梅茶漬けだった。
すみれはシャンディガフを
半分ほど飲むと、
美味しそうに梅茶漬けをすする。
「おまえ、ほんと変わってんなぁ。
しょっぱなからお茶漬けって、
来てすぐシメかよ⁈」
呆れながらも、実は、
すみれが店に顔を出した途端、
米が炊いてあるか確認していた、
マスターの火神。
1ヶ月ほど前に
ふらりと店に来たすみれ…
女1人で珍しかったこと、
それ以来、週に1、2回は、
店に顔を出すようになったこと、
そして何より、
一発目にシャンディガフと梅茶漬け…
そんなものを頼むもんだから、
火神はすぐに顔を覚えてしまった。
「だってお腹すいてるし。
空きっ腹にお酒はヤバいし…ね?」
「…っ⁈」
ニッコリ微笑みながら言うすみれに、
思わず顔を赤らめてしまい、
すみれに背を向けてグラスを拭く火神。
「はぁ…美味しかった♪
マスター!
シャンディガフとピクルス〜♪」
火神の様子に
まったく気付いていないすみれは、
上機嫌で火神の背中に呼び掛ける。
「…おう。」
少し平静を取り戻した火神は、
すみれの注文の準備を始めた。
「マスターはなんでこの仕事してるの?」
「まぁ…成り行きだな。」
「ここ…儲かってるの?大丈夫?」
店内にいる客はすみれだけだ。
すみれはこの店で、
自分以外の客を見たことがなかった。
「ま、潰れはしねぇだろ。」
火神はすみれに
シャンディガフとピクルスを出してやる。
「ふぅん。じゃ、わたし、
ココに転職しようかなぁ。」
「はぁ⁈なんでだよ?」
「うーん…もう疲れちゃったからかな。
それに、マスターと一緒に働くなら、
楽しそうだし。」
「こっちはいい迷惑だよ。」
「ひどーい!」
憎まれ口を叩き合いながらも、
マスターの火神とする会話は、
疲れたすみれの心を癒してくれていた。
すみれはシャンディガフを一口飲み、
ピクルスに手を伸ばす。
「あれ…?」
まだ手を付けていなかったピクルスが、
明らかに少なくなっていた。