第1章 〜欠片〜
隊主室を出た私は、冬獅郎に手を引かれて一つの部屋の前にやって来た。
そこで思い出したかのように、後ろの朽木さんを振り返る。
「そう言えば朽木、書類は済んだのか?」
「いや」
「なら、今日は俺が此奴預かるから、仕事戻ったらどうだ?」
「…そうか」
彼は感情の見えない顔で頷いて、来た道を戻っていった。
冬獅郎はそれを見送ってから、目の前の扉を開く。
部屋の中には女の人。
死覇装を着た彼女に採寸され、渡された死覇装に着替えさせられた。
「これ、ありがとう」
着替え終わって、今まで着ていた羽織を冬獅郎に返す。
「…あぁ」
彼はまた視線を逸らしながらそれを受け取った。
何故そっぽを向かれるのかは分からない。
嫌われてるのかな。
なんて思いながら、歩き出した冬獅郎を追いかける。
十番隊隊主室と書かれた扉の前で、彼は足を止めた。
何かを確認するように、霊圧が揺れる。
そして、元々あった眉間の皺が深くなった。
「…また、逃げやがったか」
ため息まじりにそんな言葉を溢して、扉を開く。
部屋の中には誰も居ない。
本来なら誰か居るはずだったのだろう。
大きな机の上には、書類が所狭しと並ん積み上げられている。
「…まぁ、丁度良かったか」
そう呟いた冬獅郎がくるりと此方を振り返った。
何処と無く翡翠の瞳が鋭い。
「お前、隊主会で、嘘吐いたな」
それは問いではなく、確信を持った言い方だった。
当然だ。
彼は私が最初に放っていた霊圧を知っている。
それに、精霊邸に入る前にも、霊圧を半分以下に削ってる。