第1章 〜欠片〜
どこか嬉しそうに名を名乗る玲を見て、山本元柳斎は驚いた後、渋い顔をした。
どう見ても無理矢理押さえ付けている霊圧の中に、過去、どんなに強い死神でも手にすれば瞬時に消滅した、二つの斬魄刀の力を感じ取ったのだ。
強力過ぎる霊圧を持つが故にその能力さえ未だ知られぬ封じられし斬魄刀。
それを同時に二本、体内に宿す目の前の少女が、普通でない事など明らかだった。
朽木と日番谷から報告を受け、元柳斎は何と無く少女の存在を把握する。
調停者と言う言葉と、存在そのものと言う定義。
それが真実ならば、恐らくこの少女はこの世界そのものを左右する程の力を持つのだろう。
調停者とは仲介者と同義。
言わば中立の者という意味で。
救える段階であれば手を貸すが、手遅れならば滅する…
そういう存在とも取れた。
「玲…じゃったか。お主、後どれ程の霊圧を抑えておる?」
すっと圧をかけるように視線を送ると、琥珀の瞳を瞬かせた少女は暫し思考した。
「…えっと…多分八割、ぐらい?」
答えた瞳は僅かに揺れていた。
鵜呑みには出来ない、が。
「ならば、抑制器を付けると良い。今のままでは辛かろう。涅隊長」
「何かネ?」
「三段階開放型の抑制器を作ってくれぬか」
「…面白味の無さそうな作業だが…総隊長の命では断れまいネ。すぐにかネ?」
「早急にじゃ」
「分かったヨ。では、失礼するかネ」
踵を返し、出て行く涅を見送り、取り敢えずこれで少しは脅威にもなり得まいと、息を吐いた。
斬魄刀の力が懸念事項には違いないが、こんな大勢の前で口を開かせるのも酷かと首を振る。
力は必要だ。
特に今は藍染の反逆に依って三隊の隊長が不在。
信頼出来る人物であってくれるに越したことはないが、直ぐに隊に入れる訳にも行かない。
「では、日番谷隊長、朽木隊長。彼女に色々と教えてやってくれるか」
それはつまり、お目付役と言うことで。
「…はい」
「分かりました」
頷いた二人も、何処か複雑そうな顔をしていた。