第12章 〜化身〜
「冬獅郎、また怒ってるの?」
玲が困った様に笑う。
あの後朽木は、無事ならばそれで良いと、自室に戻って行った。
その余裕綽々な態度が更に苛立ちを煽るのだが、こればかりは玲の所為ではない。
俺は黙って玲を抱き締める。
天照の時間回帰は、自浄作用もあるのか。
血塗れになって、汗だって掻いたはずの此奴の身体からは何時もの甘い香りが漂ってきて。
崩れそうになる理性を冷静になって保つ。
「ね、お風呂入りたい」
少し恥ずかしそうに目を背ける彼女は、匂いを気にしているんだろうか。
「時間回帰してるなら大丈夫だろ」
離したくなくてしらっと言い切ると、玲はむっと口を尖らせてするりと腕を抜け出す。
「気持ちの問題でしょ?」
「分かった。悪かった」
此奴が不機嫌になると俺は謝ってばかりな気がする。
昔より人に謝る回数が増えたのは、それも落ち着いたからなのか。
感じていた苛立ちは、もう収まっていた。