第3章 〜特別〜
「部屋に戻るか、玲。歩け…ないな」
遠くで白哉の小さな溜息が聞こえたけれど、目を開くのが億劫で。
ふわりと身体が浮き上がる感覚に、なんの違和感も覚えずに、私は無意識に優しい香りに擦り寄った。
ふと目をさますと、髪はきちんと乾いていて布団の上に寝かされていた。
掛けられた暖かい羽布団にまた潜り込みたくなる衝動を堪え、身体を起こすと、漆黒の瞳と目があった。
「んと…あれ?」
「意識が戻ったか。其方、暑さには酷く弱いのだな」
そんな白哉の言葉で、自分がどうして布団の中にいるのか思い出す。
お風呂で逆上せて、上がったら白哉が居て。
髪を拭いてくれる手が心地良くて、そのまま意識を手放したような…。
「…ごめんなさい」
「今日は謝ってばかりだな」
ふっと小さく笑う白哉が、頭を撫でてくれる。
滅多に笑わない彼の笑顔を、目に焼き付けて、徐に抱き着いた。
暖かい、彼の香りが鼻を掠めて、安心する。
そこへ、知らない気配が近づいてきて、襖の向こうで膝をついた。