第3章 〜特別〜
「…すまない。先に着物も渡しておけば良かったな」
歩きながら、ぽつりと溢すと、まだ私が怒っていると思い込んでいた玲が漸く顔を上げた。
「え?あ、本当だ、白哉着物だね。髪、そのほうが綺麗だよ?」
そう言って笑う彼女は、この髪が好きらしい。
黒の中に紫色が浮かぶその髪にの方が余程美しいと思うのだが。
今日は牽星箝は付けていない。
貴族にしか着用を許されぬあれは、玲と出掛けるには目立ち過ぎるからだ。
「…執務中は邪魔だ」
「そっか。白哉の長さだと顔に掛かっちゃうもんね」
ふわりと笑う玲に頷くと、遠くに屋敷が見えてくる。
「白哉、競争しよ」
突然そんな事を言い出した玲が、問答無用で瞬歩を使う。
追うように瞬歩で駆けるも、霊力の扱いにおいては彼女の方が一枚も二枚も上手で。
幾ら今の霊圧が彼女より勝っていようとも、後からでは追付ける筈もなく。
瞬きする数百分の一の僅差で後におりた私に、玲は綺麗な笑みで微笑む。
「制御、ちゃんと出来てるんだね。安心した」
突然の競争は、霊圧制御を見るための物だったらしい。
本当に安堵した様に笑う玲の頭を撫でて、私は屋敷入る。
昨晩鍛錬したのだ、とは、口が裂けても言えそうになかった。