第3章 〜特別〜
約束の時刻よりも早めに着くと、玲が慌てた様子で目の前に現れた。
瞬歩で駆けてきたのだろう。
髪が少し乱れている。
「あ、白哉!私遅れた?」
申し訳無さそうに眉を下げる彼女に首を振り、髪を手で梳いてやる。
そこで、ふと首元に鬱血した印が見えて、眉を顰めた。
「…誰に付けられた?」
自身の声が平素より低くなっていることを自覚しながら、玲を見ると、琥珀の瞳が不安気に揺れた。
その様子で、相手が誰か理解する。
此奴が庇う死神など一人しか居ないのだから。
「…朝、噛まれたの。冬獅郎に…」
小さな声で白状する玲の頭を撫でて、その手を引いた。
独占欲の現れを、噛まれたと表現する彼女に、何を言っても困惑させるだけだろう。
これは奴の挑発なのだ。
乗ってしまえば玲を困らせるだけ。
ならば一度屋敷に戻ろうと、元来た道に足を向けた。
まさか、街に出ると言うのに死覇装で来るとは思いもよらなかった。
否。
自分の気が回らなかっただけだ。
二日前、産まれたままの姿で見つけた彼女が、着物など持っている訳がないのだから。