第1章 〜欠片〜
湖畔から離れ、二人の男と歩きながら、私は頭の中で瞬く膨大な情報を如何にか整理しようと四苦八苦していた。
鬼道。体技。 歩法。斬魄刀。
その総てが、死神の戦闘に必要な物で。
情報量の多さに脳の神経が悲鳴を上げ、激しい頭痛に苛まれる。
「おい、大丈夫か?」
少年が振り返って足を止めていた。
長身の男も足を止め、視線だけをこちらに向ける。
そんな様子を視界に捉えながら、荒い呼吸を吐き出した。
「少し…待って…」
流れる記憶の中で理解した。
自分の力がこの世界にとってどれ程異質なものなのかも。
普段纏っているこの霊圧でさえ、普通の魂魄にとっては害にしかならないことも。
そして、今彼等が平然として居られるのは、元々大きな力を持っている魂魄だからなのだという結論と共に。
納得すると、ふっと身体が軽くなった。頭痛も引いている。
「あなた達は…死神…?」
問いかけると、彼等は暫し黙った。
「…そう言えば、何も言ってなかったか」
自分達が名乗りすらしていない事に漸く気付いたかのように。
少し慌てて、少年が切り出す。
「護廷十三隊、十番隊長日番谷冬獅郎だ。遅くなって悪かった」
そんな謝罪に首を振ると、もう一人の男も口を開いた。
「六番隊隊長、朽木白哉だ。…其方は?」
名を聞かれたのだろう、その言葉に、私は少し考える。
名とは他人に呼ばれる為に存在するもので。
個として存在するから必要な物で。
そもそも、ただ意思があっただけで、この世界と同一の存在だった私に、そんなものがある筈もなく。
「…調停者…?」
先程も言った気がする言葉を、繰り返していた。
それは私の存在意義で。
他に自身を表す言葉が見つからなくて。
けれど、二人は驚いたように目を見開いた。
「先程も言っていたが…それが其方の総称と言うわけか?」
「総称…」
復唱して、考える。
そもそも、総称などない。
私の存在はただ一つ。
種族すら、無い。
「…存在、そのもの」
そう、応えると。
日番谷と名乗った少年が眉間に皺を寄せて、瞳を揺らした。
「そうか」
朽木と名乗った男は、静かに呟いて、また歩き出す。
何か言いたげだった少年も、黙って歩き出した。