第1章 〜欠片〜
「あ…えっと…」
申し訳なさそうに視線を下げる女からは殺気も敵意も感じない。
この異様なまでの霊圧さえ無ければ。
「…取り敢えずこの霊圧、抑えられねぇのか」
ため息混じりに言葉を投げると、困惑した様に琥珀色の瞳が揺れる。
そして、暫く何かを思い出すように唇に指を当て…あ、と呟いて、目を閉じた。
すると、すぅっと霊圧が軽くなる。
それでも並みの死神ならば昏倒するだろうが、彼等ならば、無理に自分の霊圧を維持する必要はない程度に。
それを確認して、少年は女に近付いて、羽織を羽織らせる。
彼よりもずっと華奢な身体は、それだけで十分に肌を隠せた。
「で、どうすんだ?」
「指令は回収だ」
まさか女だとは思わなかったが。
そう、心の中で付け加えて。
少年は溜息を吐くと、女を振り返る。
「…お前、歩けるか?」
その言葉で、女は自分の足に目を落とす。
恐る恐る体重を移動させて、足の裏を地に付ける。
それは、彼女にとって不思議な感覚だった。
ついさっきまで、ずっと空を漂うような漠然とした感覚しか無かったのだから。
歩き方など、とうに忘れてしまったかと思ったが、人の身体というのは本能的にそれを理解しているものらしい。
ゆっくりだが、立ち上がり、しっかり地を踏んだ彼女に、少年は安堵したように小さく笑った。
「…ゆっくり戻るか」
どことなく覚束ない足取りの女に、少年は呟く。
その提案に、男も文句は言わなかった。