第1章 〜欠片〜
霊圧を放出し続けるせいで、上がる息を無視し、二人が辿り着いたのは美しい湖畔だった。
その水辺で、一糸纏わぬ姿で座り込む女。
それが、この凶悪なまでの霊圧の元凶だった。
気配を消し、腰の刀に手を掛けたまま近寄る彼等に女が気付く。
「…人…?」
空を切る様な、澄んだ声だった。
上げられた顔と、今にも泣きそうな表情を見て、束の間、思考が停止した。
瞬間、襲ってくる霊圧の重さに耐え兼ね、膝をつく。
「女、か。其方、何者だ?」
ぎりぎり持ち堪えたらしい六の羽織を纏った男が、厳しい視線で女を射抜く。
如何にか立ち上がった少年は、しかし、妖艶すぎる肢体を直視出来ずに目を逸らした。
長い髪で上手い具合に隠れてはいるが、今の姿は男には厳しいものがある。
女は少し考えた後、首を傾げた。
「…調停者…?」
「何故私に問う」
何事も無いかのように、問答を繰り広げる二人に、少年はこめかみを抑えた。
「お前は、なんで普通に話せんだ、この状況で!」
「…何か問題が」
「大有りだ!」
何処ぞの天然の様な反応を示す男に痺れを切らし、少年は羽織を脱いで女に投げる。
「…兄は初だな」
「お前がおかしいんだよ!」
そんな彼等のやり取りの間、女は投げられた羽織を広げたり引っ張ったりしながら首を傾げる。
「お前まさか…」
そんな不可解な挙動に気付いた少年は、ひくりと口元を引き攣らせた。