第2章 〜天賦〜
「そうですか、ではお願いします」
にっこりと笑って頭を下げると、彼女は満足気に頷いた。
「道は分かるのか?」
その問いに、私は一瞬考えて答えを返す。
「記憶力は良い方なので、朧気ながら」
「成る程。私の名も彼奴らに聞いたか?」
歩き出しながら、砕蜂さんが振り返る。
「はい。覚えておいた方が失礼にならないかと思って、後で伺いました」
「そうか。良い心がけだな」
そう言って笑う砕蜂さんの目からは剣が取れている。
その事にほっとして、私も自然に笑った。
「ありがとうございます」
その瞬間、彼女がピタリと足を止める。
食い入るように此方を見つめる瞳に、不思議に思って首を傾げる。
すると、彼女は何かを耐えるようにゆっくり目を閉じた。
「砕蜂隊長?お気分が優れませんか?」
目眩でもしたのかと思って声を掛けると、彼女はいや、と首を振った。
「…何でもない」
そう言って、羽織を翻し、また歩き出す。
そんな彼女に着いて行きながら、さっきの瞳に映った感情を検索にかけていた。
冬獅郎も、白哉も見せた、何かを抑え込むような、何処と無く寂しそうな、そんな瞳。
けれど、私の持つ膨大な情報にも掛かるものは何もなくて。
結局諦めて、自分と同じぐらいの大きさの女隊長の背を追った。