第12章 〜化身〜
外がやけに騒がしくなって、吉良は机から視線を上げた。
今日は玲が手伝いに来ると伝令があった。
執務室から少し離れた隊主室まで騒ぎが聞こえるのは、彼女の所為だろう。
彼女は色々と特別過ぎるから。
隊士達も目に留まろうと必死なのだ。
吉良からすれば、十番隊と六番隊の隊長に気に入られている彼女に関わるのは、自殺行為に等しいものなのだけれど。
今日をどう乗り切ろうかと溜息を吐きつつ、お茶を淹れに給湯室へ足を向ける。
不満を持たれない様、乗り切る事だけを考える自分にふと目を閉じる。
総隊長にすら無傷で勝てる彼女に、今更畏怖を抱く自分はやはり臆病なのかと自嘲する。
それでも、吉良が美しすぎる玲に感じるのは恍惚や陶然とした類のものでは無く、本能的に傅きたくなる支配力なのだ。
魅入られれば最後、自分が自分では無くなってしまいそうな恐怖。
それは、その強大な力に対してでは無く、彼女の本質に対してとでも言おうか。
「お邪魔します。吉良君居る?」
この明るく無邪気な少女を、吉良は警戒していた。
「あ、うん。すぐにお茶、淹れてくるから」
苦笑いを浮かべて、給湯室に逃げると、玲が首を傾げる。
彼にとって、今日を普段通りに乗り切るのは、難しそうだった。