第11章 〜予兆〜
桃に急かされた冬獅郎は瞬歩で駆けつけたそこの惨状を見て、目を見開いた。
少し遅れて着いた白哉も、粒子と化したその場所を厳しい目で見つめている。
瞬間、途方も無い殺気を感じて、二人は大きく飛び退る。
そこには、漆黒の羽を背に此方を見下ろしている玲がいた。
「なんだよ、これ」
琥珀の瞳は濁り、焦点が合っていない。
会話すら、望めそうに無い彼女の状態に、冬獅郎は悪態を吐いた。
「恐らく、月読だろう。玲は月読は眠っていると言っていた。それが起きてしまったのではないか」
「お前、冷静だな…」
現状を見ても、眉一つ動かさない白哉に、冬獅郎は溜息を吐く。
「不思議には思っていた。彼奴が何故、私達に力を求めるのか。自分が暴走した時、それを止めて欲しいと思っていたのならば、辻褄も合おう」
「…此奴を止めれば元に戻るんだな?」
「恐らくは、な」