第11章 〜予兆〜
「昨日冬獅郎、ローストビーフ作ってたよ」
「ろーすとびーふ?って何?」
「前に修行場所で何度か私が洋食作ったでしょ?それが気に入ったのか、唯の負けず嫌いなのかは分からないけど。現地の料理本届けさせて、解読して、昨日作ってくれたの」
「えぇ?!凄い!見たかったなぁ。玲ちゃん愛されてるね」
「愛…?」
また、分からない言葉。
理解出来ない感情表現。
私の反応で、桃は何となく理解したのか、残念そうに目を落とした。
「ねぇ、玲ちゃん。乱菊さんとシロちゃんが一緒に楽しそうに歩いてたらどう思う?」
「乱菊と冬獅郎は隊長と副隊長だよ?よく見かけるけど」
「あ、そっか。じゃあね…あ、伊勢さんとシロちゃんが手繋いでたら?」
提示された架空の話を想像して頭に思い浮かべてみる。
恥ずかしそうに手を引かれる七緒と、昨日の悪戯に笑う冬獅郎が歩いてたら。
「…なんか、もやもやする…かな?」
そのもやもやが不快で嫌だと思う。
けれど、その感情を表す言葉が見つからない。
霧に隠された様に。