第11章 〜予兆〜
「何笑ってる」
「えっと、可愛いなと」
「そうか。後で覚えてろ」
「え、やだ忘れた」
こんな会話のやり取りさえ、楽しいのだから彼は不思議だ。
食事を終えて、無難に乱菊の所に差し入れすると、丁度檜佐木と阿散井が居て、喜んで食べる様子に微笑んで。
部屋に戻ってきて、洋書の料理本を開く。
ごろりとベットに寝転がって、溜息を吐く。
因みに冬獅郎は浴室だ。
「あ〜言語理解能力、今だけで良いから消してくれないかな」
言葉にして呟くと、ふっと目の前の文書が訳のわからない記号に変わった。
如何やら情報を抜き取ってくれたらしい。
誰がって、勿論世界が。
この分じゃ私の記憶なんて簡単に消せちゃうんだろうな、なんて自嘲しつつ。
本棚の前に移動して料理本ではなく、物語らしい表紙の本に手を伸ばす。
そして再びベッドに寝転びながらページを捲っていると、呆れを孕んだ声が落ちてきた。