第11章 〜予兆〜
こういう時、如何しても尸魂界で手に入らない調味料や材料以外は創造はしない。
理由は単純、つまらないから。
料理だって、手をかけたほうが美味しくできるし、楽しい。
ミネストローネを煮込みながら、片手間に前菜として鳥胸肉でテリーヌを作りつつ、冬獅郎を見遣る。
料理慣れしている筈の銀髪の彼は、初めて作る和食以外の料理に悪戦苦闘中。
時折料理本と睨めっこしながら作っているのが微笑ましくて、手は出さない。
料理の腕は、あの修練場所で生活している内にいつの間にか上がったので、私は書き込まれた情報通りに手を動かすだけなのだけれど。
因みにオーブンは今さっき創って、冬獅郎はそれとまた睨めっこしてる。
ボタンをピッピと押しながらも、眉間のシワが増えてくのが、何とも分かりやすい。
「冬獅郎。説明書」
「…チッ」
何か不服だったらしい。
機械の扱いが分からないのがそんなに悔しいんだろうか。
ぱらぱらと薄いそれを捲って、納得したらしい冬獅郎がオーブンの温度設定をしているのを、見遣って。
私は出来てしまったテリーヌを冷蔵庫へ入れ、ミネストローネの火を弱火にして、デザート作りに取り掛かった。
此処がもう殆ど現世のキッチンと変わらない事に突っ込みを入れる者は残念ながら居ない。
卵を割ってプリンのレシピを思い返していると、オーブン任せで手持ち無沙汰になった冬獅郎が怪訝そうに此方を見ていた。
うん、今度カメラ作ろう。
珍しい姿にカメラを向ける七緒ややちるの気持ちがちょっと分かる気がする。
怒られそうだけど。