第11章 〜予兆〜
「取り敢えず落ち着こ?」
今にも凍り出しそうな其処から彼を連れ出す。
冷静だと思っていた冬獅郎は、相手が一般人じゃなくて死神だったなら、今すぐ殺しに行きそうな程怒っていた。
近場の公園に連れ込んで、彼を抱き締めて落ち着かせる。
ぎゅっと回された腕は、震えていた。
「冬獅郎。私はそんなに柔じゃないよ。毒なんかじゃ死なないから、ね?」
「…俺の所為だろ?毒盛られたの」
「さぁ…そんなの本人に聞かなきゃ分かんないよ」
ふと彼が腕を解いて顔を上げた。
そんな彼の目は据わっていて。
近付いてくる霊圧に、私は嫌な予感しかしない。
「隊長!」
「松本、これを技局に回せ。それと、飛鳥堂って甘味屋を調べさせろ」
「あ、こら!冬獅郎!」
彼が取り出したのは餡蜜を包んだ白い包みで。
飛鳥堂はさっきの甘味屋の名前だ。
「え?説明して下さいよ。隊長の霊圧が上がったから、虚でも出たのかと…」
「玲が毒を盛られた。その甘味屋でだ」
「あ、成る程。分かりました。玲、大丈夫なの?」
簡単に納得し、包みを受け取った乱菊に私は肩を落とす。
「うん、大丈夫だけど…。乱菊、突っ込まないのね?」
「隊長が怒るなんて貴女に何かあった時ぐらいのものでしょう。それに、毒を盛るような飲食店、瀞霊廷に置いとけないわ」
確かにそうなのかもしれないけれど。
もう行かなきゃ良いだけなのに、なんて思う私は甘いんだろうか。
瞬歩で去った乱菊を見送って、少し複雑な気分になる。