第11章 〜予兆〜
「ほら、行くぞ」
この時間ならと、隊長羽織を脱いだだけの冬獅郎と、瀞霊廷の甘味処へと向かう。
前に白哉と来た時よりは死覇装の姿が目立って、首を傾げていると、もうすぐ定刻だからな、と声が降ってきた。
「夕方になるとこんなに違うんだね」
「そもそも此処は死神の為に造られた様なもんだからな」
そう言って私の手を取る彼は、羽織を羽織ってなくともその色彩で十分に目立つのだけれど。
今更かと思ってそのまま手を引かれる私は、大分此方に馴染んだ様で。
少し苦笑する。
途中飲み屋で乱菊の姿を見つけたものの、冬獅郎は完全無視で。
指摘すると機嫌が悪くなる気がしたので放って置いた。
甘味処に入って、羊羹と餡蜜を頼むと、彼は心太を頼んでいて。
最近あまり甘い物を食べなくなったなとふと思い出す。
「冬獅郎、甘いの苦手になった?」
「…苦手ってほどじゃねぇが…此処最近食べたいとは思わなくなったな」
味覚が変わったのは、多分私が魂魄安定させて身体の成長を促したからなんだろうな、なんて視線を落とすと、くいっと顎を掴まれて顔を上げさせられる。
「余計な事考えてるだろ」
「う…読心術反対」
「読んでねぇ。お前顔に出易いんだよ」
真っ直ぐ見据えてくる翡翠の瞳に、少し躊躇ってから口を開く。
「身体とか好みとか、変わった事後悔してない?」
「誰がするかよ。お陰で戦闘で力負けしなくなったし、霊圧も上がった。寧ろ感謝してる」
「なら、良いんだけど…」
「あの…」
不意に声を掛けられて、困った様なその空気に、そう言えば顎掴まれたままだったと思い出す。
冬獅郎が慌てて手を離せば、看板娘は営業スマイルを浮かべて、盆に乗っていた品を置いて一礼して去っていった。