第11章 〜予兆〜
疲れが顔に出ていたのだろうか。
冬獅郎が珍しくお茶を淹れて出してくれる。
此処では乱菊がいる時は余り自分から席を立とうとはしないのに。
そう思って、周りを見渡し、副官が居ないことに漸く気付く。
「…隊主室が書類倉庫になってれば時間もかかるでしょ」
「あぁ…九番隊の期限過ぎた書類がやけに多いとは思ってたが…」
翡翠の瞳が若干憐れみを孕んでいるのを見て、また小さく吐息を溢した。
幾ら処理能力が高いと言っても、所詮演算効率を上げているだけで。
一応人間なのだから、人の何倍もの仕事を一気に片付けて疲れないはずも無い。
「冬獅郎。羊羹食べたい」
脳が疲れた時は甘い物とはよく言うもので。
無性に食べたくなったそれを口にすると、ぽんぽんと頭を撫でられた。
「今日はもうすぐ終わるからな。甘味屋行って、飯でも食いに行くか?」
「うん」
頷いた私はもう無一文では無い。
死神と認められ、無所属を認めさせた次の日。
つまり、彼と現世へ降りた後に、此方の金子は幾らか貰っていた。
お爺ちゃん曰く前払いだそうだけれど。
因みに昨日の修復の後にも、大工に払うはずだった金子を幾らか貰っていて。
別にお金の為にしたんじゃ無いと突っ返したのだけれど、半端無理矢理持たされてしまった。
つまり、お金は何故か沢山あって。
私は、偶には奢ってあげようかな、なんて企んでみるのだった。