第11章 〜予兆〜
「…あの…玲…サン…」
「何?」
わざと剣のある声で返すと、檜佐木はその場で綺麗に土下座した。
「すみませんでした!お怒りをお鎮めください!」
必死に謝る彼だけが悪い訳では無い事ぐらい、分かっている。
人手が足りないと分かっていて、見て見ぬ振りをしている総隊長も、離反した元隊長も悪い。
だから別に仕事を押し付けられたから怒っているわけじゃ無いのだ。
「修兵」
「はい…?」
上げられた恐怖で真っ青な彼の顔を見て、溜息と共に霊圧を抑える。
押さえつけるような重苦しい空気が霧散し、刺すような霊圧が普段の穏やかで暖かいそれに戻る。
ほっと息を吐いた檜佐木に、玲は少し剥れて言った。
「お昼ぐらい、一緒にいるよね?」
何処と無く拗ねた様子の彼女に、心臓を貫かれた様な衝撃を受ける。
単純に玲が寂しがりなだけなのだが…それを知らない彼には、麗人が放って置かれて拗ねているとしか映らない。
強ち間違っては居ないのだが…檜佐木の理性は既に崩落寸前だった。
「あぁ。済まなかったな、一人にして」
歩み寄って、玲を慰めようと…(あわよくば襲ってやろうと)手を伸ばすも、ぱしりと霊力で弾かれる。
「修兵。鬼道か瞬閧か…選ばせてあげるよ?」
にっこりと笑う彼女の目は笑っていない。
調子に乗るなと言葉と圧力が語っていた。
「…どっちも、遠慮させてください…」
消沈した檜佐木が玲に敵うことは有るのだろうか。
すごすごと自席へ戻る檜佐木に、玲はくすりと小さく笑った。