第11章 〜予兆〜
身体を洗ってお湯に浸かると、ほっと詰めていた息を吐き出す。
お風呂に浸かるのはかなり久々な気がする。
修行場所にも大浴場は作ったけれど、あまり使う余裕も無かったし。
やっぱりここのお風呂が一番落ち着く。
まぁ、今日はゆっくり出来なさそうだけれど。
脱衣室で何か声が聞こえて、がらりと浴室の扉が開く。
「ほら、ルキア。緊張しておるのはお主だけだぞ?」
「あ、はい。その様、ですね」
夜一とルキアは身体を洗いにシャワーの方へと向かう。
其処で真っ裸の夜一が、タオルで身体を隠しているルキアをいじり倒す声を聞き流しながら。
私は一人、天窓を見上げた。
空には三日月が淡く輝いていて。
私が今は個である事を知らしめる。
太陽よりもずっと強く。
それはまるで戒めの様に。
今の私は人の身体。
霊子で構成された魂魄と同質。
彼女らと、殆ど違いはない。
本能が要求しないだけ。
人にある欲が、自分には無い。
ただ、それだけなのだけれど。
酷く寂しいと思ってしまう私は弱いのだろうか。