第9章 〜修練〜
目が覚めると嗅ぎ慣れた彼の香りがして。
昨日の心の乱れが嘘のように落ち着いていた。
何と無く、分かった気がする。
私はこの温もりを失いたく無いのだと。
彼等が居なければ、私の心は何処にも無いのだと。
ふと知らない感情が込み上げて、綺麗な顔に口付けてみる。
すると、寝ていると思っていた彼の霊圧が揺らいで、翡翠の瞳が覗いた。
「分かっててやってんのか?」
「何を?」
不味かったのかと視線を逸らすと、ふっと彼が微笑んだ。
「怒ってねぇよ。目逸らすな」
言われて視線を戻すと、柔らかい笑みに目が逸らせなくなる。
「冬獅郎、ずるい」
「何がだ」
問われるも、その色が、顔立ちが綺麗すぎて、なんて言えず。
とんと彼の肩に額を乗せると、するりと髪を撫でられた。
その感覚が擽ったくて、心地良くて。
ずっと、なんて叶わないこと分かってるけれど。
もう少しこのままで居たいなんて、不思議な感覚に囚われる。
けれど、昨日食事を作ってからそれなりに時間が経っていることを思い出して、顔を上げた。