第9章 〜修練〜
それから二日経った。
それは、玲が創造した洞窟の中での話であって。
瀞霊廷では全て併せても約五時間という短い時間。
けれど、時空が捻じ曲がっているそこでは、体感時間は正しく二日だった。
一向に目を覚まさない冬獅郎と白哉を気に掛けていた玲が、徐々に纏う雰囲気を変えていた。
鬼道の集束率と転換率を上げる為に修行を続ける彼等が話し掛けても、綻ぶように笑う事が無くなった。
何処か疲労の色が濃い彼女が、何に堪えているのか、死神達には分からない。
詳しい事情を知らない彼等は、只気を紛らわすかの様に無言で的を砕いていく少女を見守る事しか出来なかった。
「…卯ノ花。どう見る?」
休憩していた浮竹が、離れた場所で鬼道を放ち続ける玲を見つめてながら呟いた。
救護詰所を取り仕切る、病人を見る事に長けた彼女に話を振るのは、それだけ彼女の様子が普通では無いからだ。
徐々に光を失っていくかの様な琥珀の瞳は、ずっと遠くを見据えていて。
「…恐らく、睡眠を取っていらっしゃらないのではないかと」
視線の先の少女の身体に、体調不良による異変は現れない。
それは、彼女の斬魄刀が、その不調を全て癒してしまうからだ。
けれど、人にとって眠る事は身体の休息だけでは無い。
いくら疲れていなくとも、一睡もせず動き続ければ、心が疲れてしまう。
そして彼女の精神は、自分達が思っているよりもずっと脆いか、それとも何か過負荷が掛かっているのでは無いか。
それが卯ノ花の見立てだった。