第9章 〜修練〜
「ねぇ…もう、良いよね?」
にっこりと笑みを浮かべた玲は、誰から見ても美しいのだけれど。
その美しさ故に、隠された内側の怒気に、誰もがぞくりと背筋を凍らせる。
指一本動かす事も憚られるほどの、緊迫した空気が、広い空間全てを占拠した。
冬獅郎や白哉とて、例外ではない。
ぴしりと表情を凍らせた彼等は、尤も怒らせてはならない少女の怒りを目にして冷や汗を流す。
「…悪、かった」
「玲…すまぬ」
即座に側に寄って反省の色を見せれば。
玲は静かに溜息を吐いて、纏っていた空気を霧散させた。
瞬間、嘘のように空気が弛緩して、皆が詰めていた息を吐き出した。
「ほら、無茶しないでって言ったでしょ?」
仕方なさそうに、冬獅郎と白哉の身体の傷を癒す玲は、一瞬前とは別人だった。
大人しく傷を治してもらいながら、どうして良いか分からない彼等。
二人が不自然に目を泳がせる様が余りに珍しく、ついに京楽が噴き出した。
「ぶはっ!君達もそんな顔するんだねぇ!まるで親に怒られた子供みたいだ!あはははは!」
「っ、京楽、笑、うな…くっ」
若干涙目になりながら堪えている浮竹も堪えきれていない。
ぴしりと青筋を浮かべながらも、いつもの様に怒鳴れない冬獅郎と、すっと無表情に戻った白哉だったが。
「ふふ、シロちゃんのそんな顔初めて見た!」
「ななちゃん!撮った?!撮った?」
「抜かりありません」
「面白いものが見れましたね」
くすくすと笑いながら、カメラを仕舞う女性陣に、冬獅郎が耐え切れるはずもなく。
「てめぇら…!」
即座に氷の龍を生成するも、
「冬獅郎?」
呼び掛け一つで動きを封じられ、氷も割れて破片に変わる。
因みに玲は縛道など使ってはいない。
唯、今の彼にとって、玲の一声がその精神に多大な影響を齎すだけ。
後で完膚無きまでに映像を隠滅する事を胸に誓い、今は兎に角落ち着く為に深く息を吐いた。