第9章 〜修練〜
「何をする気だい?」
首を傾げる京楽に、視線は向けず、言葉だけ返す。
「見てて。今から、これぐらい出来る様になってもらうから」
そう言い置いて、玲は凛とした声音で詠唱を始めた。
「君臨者よ。血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ」
収束した霊力が凝縮し、光を強め、周囲の空間が揺らぐ。
玲自身の霊圧は殆ど変わっていないにも関わらず。
その手に収束する力は、隊長達でさえ目を見開く程の物。
「真理と節制罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ」
紡がれる詠唱は、死神ならば誰でも知っている低位の物。
しかし、収束する霊力は甲高い音を立て、発光し、周囲に突風まで巻き起す。
「破道の三十三、蒼火墜」
誰もが目を見開く中で、放たれたその蒼炎は。
目で追えぬほどの速力と、圧倒的な威力を持って。
ぶつかり合う桜と氷を消し飛ばし、尚も衰えず遥か遠くの壁にぶつかり巨大な爆発を起こした。
「何…だ、今の」
ぎりぎりの所で回避した冬獅郎はそれが蒼火墜だと理解出来なかった。
「…玲、か」
爆風を千本桜で防いだ白哉は、眉を潜めて術者を見遣った。
近くで、がしゃんと陶器の割れる音がする。
しかし、玲は真っ直ぐに冬獅郎と白哉を見据えていた。