第5章 〜遊戯〜
「あ、消えた。そうだよね、邪魔しかならないね」
狛村の毛並をブラッシングで整えていた彼女は、思考リンクから外れて消えた同じ創造体の思考が理解出来た。
リンクが切れた後の行動まで伝わったのは、彼女も創造体だから故。
恐らく本体には、最後の苦悩は届いていないだろう。
因みに、狛村が大人しいのは密かに張られた結界で、霊圧探知を妨害ているためだ。
でなきゃ、総隊長が斬魄刀を抜いた時点で飛んで行くに決まってる。
「何が邪魔なのだ?」
心地良いのか耳を下げ、大きな身体を横にして自分に頭を預けている狛村は、完璧に犬化している。
「んーん。はい、終わったよ」
ぽんぽんと頭を撫でると、少し残念そうに身体を起こすこの人狼。
可能ならばペットにしたいが、そういう訳にも行かない。
「そろそろゲーム終わるしね。ねぇ狛村。おいで」
素直に寄ってきた狛村の頭を抱き締めると、困惑した彼の手が自分の袖を掴んで。
捕まった彼女はくすと笑って目の前の毛並みを撫でた。
「行くのか」
「私は分身。所詮幻だよ」
すっと薄れていく身体に、名残惜しそうに手が伸びて。
触れる前に粒子へ変わる。
「あれも瑞稀玲なのか?それとも別の人格なのか…」
残された狛村は結界の解けたその場所で、暫し悄気たように耳を伏せていた。