第5章 〜遊戯〜
他の創造体が全て消え、刻限が迫った事を感知した彼女は、逃げる速度を落とした。
追ってくる桜の刃に捕まるように。
しゅるりと半身に巻き付いた千本桜が身体を切り裂く痛みが、酷く鈍かった。
もう、時間が無いからだろう。
少しずつ、本体に引き寄せられているのが分かる。
「な…?」
驚きで見開かれる白哉の表情を見て、うっすらと笑う。
「空、晴れたね」
「…そうだな」
表情を戻した彼が空を見上げる。
私は徐ろに足を引きずって彼に近寄った。
「これで終わりでしょ?」
「…斬れと言っておるのか」
「白哉なら、出来るよね」
微笑むと、寄せられる眉。
僅かに硬くなる表情。
「早く。じゃなきゃ私の自我が本体に取り込まれちゃう」
「何か不味いのか」
「本体の目が濁っても良いの?」
「其方がそうさせるのか」
「可能性、だけど。確率は高い」
やはり少しの躊躇いを目に浮かべた白哉は、しかし、そうかと頷いて手を翳した。
それで十分。
桜色に染まる視界と、遠のく意識の中で、彼女は嬉しそうに微笑んだ。