第5章 〜遊戯〜
玲であって玲じゃない。
けれど記憶も思いも全て同じ。
彼女の言いたい事を理解して、冬獅郎は目を逸らした。
「悪い」
そこまで考えてはいなかった。
知っていた筈なのに、仕草が、言葉が玲と違う事に安堵して、剣を向けた。
そんな自分を後悔するも、
「いい。もう…ゲーム終わるから、私は要らなくなる」
「終わるって…」
はっとして、空を見上げた。
さっきまで降りしきっていた雨は上がっていて。
日照りを生み出していた、総隊長の霊圧が、酷く小さくなっている。
「冬獅郎、お願いがあるの」
「なんだ」
「私を斬って」
真っ直ぐ、琥珀色の瞳を向ける彼女に、目を見開いた。
今あんな話を聞いてすぐに、斬ることなど出来る訳がない。
けれど、彼女は首を振る。
「本体、優しいから。私が自我を持ったまま、帰ったら、きっと消せない。それじゃ駄目なの」
「どうにもならねぇのか」
「私の自我は、本体の記憶と思考を基にできてる。他の肉体になんて入りたくないし、この思いも消せない。邪魔にしか、ならない」
意味は分かった。
どうにもならない事も、何と無く理解は出来る。
「日番谷冬獅郎。私を斬りなさい」
きっと目を強くして、威嚇するように霊圧を上げる此奴から、その必死さが汲み取れて。
しかし、不意に最初の創造体が消えた記憶を思い出した冬獅郎は、
刀を納めて、瞬歩で距離を詰めた。
「え、は?」
腕の中で訳がわからないと困惑している其奴を荒く撫でて。
「要はゲームから脱落すりゃいいんだろ?」
“捕まえられた”彼女はあ、と声を漏らして、直後、笑った。
「ありがと」
その言葉と共に、粒子に戻った彼女だった物を見送る。
「自我、か。彼奴…泣いてねえと良いが」
恐らく酷く後悔するだろう玲をおもって、冬獅郎はぽつりと呟いた。