第5章 〜遊戯〜
「あ。見つかっちゃった」
視線を上げた玲は、冷たい漆黒の瞳にぞくりと身震いした。
「其方が創造体か」
「…やっぱり分かる?」
創られて最初の一刻ほどは、誰の目に見ても玲だった。
しかし、戦闘を重ねる毎に自我が生まれて、思考や記憶は同じなのに玲で無くなっていることは、彼女とて自覚していた。
「彼奴の瞳は其方の様に濁ってはいない」
「否定出来ないのが凄く辛いかも」
戦いが楽しくて、でもつまらなくて。
強い相手を欲したはずなのに、彼を見ると逃げ出したくなる自身の記憶に息を吐く。
「本体、貴方にこんな感情持ってるのにそれを理解させて貰えないとか、軽く拷問かも」
「…感情は、あるのか」
「じゃなきゃ私が貴方を見て、どうしようも無く逃げ出したくはならないはず」
「回りくどい」
「え、白哉鈍い」
「そうか、それ程斬られたいか」
すらりと千本桜を抜いた白哉に、彼女は身を翻す。
豪雨で視界の悪い場所に身を隠すように。
あと四半刻、逃げられれば良い。
仮に自分が斬られても、創造体であるこの身は搔き消えるのみ。
ゲームは、本体が捕まらなければ、此方の勝ちなのだから。
そう、自分に言い聞かせて、桜色の刃を避ける。
ずきりと痛む胸に、気付かない振りをしながら。